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働き続ける日々に感じる違和感


2019.06.30


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 金融庁が6月初めに公表した「高齢社会における資産形成・管理」によれば、年金だけで老後を一生暮らすのは無理で、平均2,000万円の資金が必要らしい。これが日本中で大きな議論になっているというニュースを見てびっくりした。2,000万円という額ではない。多くの人が年金だけで現在と同じレベルの生活が一生続けられると思っていたらしい、ということに対してである。それほど日本人は楽観主義者の集まりなのか?

 私自身は70歳までフルタイムで働いて年金も払っていたので、実際の年金額がよく掴めていなかった。(少なくとも、65歳から貰っていた年金は減らされており、これだけで生活するのは無理だなとは思っていた。)4月からフルタイムの仕事が無くなり年金額が再計算されたので、この機会に生活費を棚卸して収支を計算してみた。結果は、「年金だけの生活でもぎりぎりセーフ」だった。でも、これは私自身の特殊事情によるもので、誰でも同じとは言えない。年金だけで暮らせそうな要因は次の点である。@70歳までフルタイムで働き年金を払い続けていた A一人暮らしである B持ち家がある C借金はない D公共料金は最低限に切り詰め、(高血圧対策のために)外食はせず、海外旅行はせず、趣味は家でできるプログラミングと電子工作と近所の散歩、薬なし、家で白髪染め。私の周囲の年金生活者は、奥さんが居て、車を持っていて、国内外旅行に頻繁に行き、外食も楽しんでいる。年金だけでこれは無理だろう。ちなみに私の生活パターンは自分の意思によるもので、将来『高性能の介護ロボット』を雇うための蓄えを取り崩したくないからである。

 もう一つ違和感を感じていることがある。終身雇用に対する受け止め方である。私自身は、経団連の会長やトヨタの社長の言っているように、終身雇用を続けることに無理があるのは当然と思っていたのだが、世の中は騒いでいる。定年退職を(60歳、65歳、70歳と)3回もしていながら図々しいと思われるかもしれないが、昭和から平成のビジネス環境と平成から令和のビジネス環境は違うということに早く気付くべきではないか。

 昭和や平成の前半までは、真面目にコツコツ大過なく働いていれば定年まで勤められた。東京から大阪まで行くということが決まっていて、出世の速い人は新幹線(のぞみ)で、遅い人は鈍行を乗り継いで行けばよかった。その差は最終的な地位や退職金や生涯の給与に出てくるだけだった。でも、平成の半ばからは違った。真面目にコツコツ大過なく仕事することはロボットの方が得意であることが判明した。行先は予告なく、しかも頻繁に変えられるようになった。新しい行先の近くに居る人は高給で雇われ、後れを取った人は道に迷う。だから犯人の乗る車を追う覆面パトカーのように、見失わないようにピタリとはりついて行かなければ巻かれてしまうのだ。それだけ厳しい世の中になったということだ。

 この厳しい世の中で70歳まで働き続けたいと思ったら犯人追跡のスキルを身に着けるしかない。自分の働く組織内だけでなく、業界全体、社会全体を見て、常にどこに行っても大丈夫なように覚悟を決め、学ぶ姿勢を身に付けなければならない。50年近く前に私が入ったIT業界はまさにそれが求められていた。だからここまで働き続けられたのかもしれない。



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