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三歳児神話なんてもう古い


2019.03.03


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 毎年、40年以上前に一緒に仕事をした方々と集まる。私が最年少なので、全員が70歳代以上ということになる。その時出た話題に、「音楽でもスポーツでも、多分囲碁や将棋でも、3歳までに始めなければトップにはなれない」というものがあった。私は反論した。トップになれる人は遺伝的な影響などから他の人とは違うものを持っていて、それを助ける意味での早期教育は有効かもしれないが、大半の3歳児に無理に早期教育などしたら、却って悪い影響を与えるのではないか、と思ったからである。

 自分の子供や孫がひょっとしたら将来トップアスリートや芸術家になるかもしれない、と思うのは理解できる。子供は毎日成長しているので、昨日できなかったことが今日できる。これは親(および祖父母)にとっては嬉しいことだが、だからと言って天才だからとは限らない。つい嬉しさに目がくらみ早期教育を無理強いしたらどうなるか、想像できるはずだ。いやうちの子(孫)は違うと思うのは自由だが。かわいそうなのは子供(孫)ではないか。

 最近、脳科学の本を読むのにはまっている。当初は、人間の脳はAIとどう違うのか、人間はAIとどうすみ分けていったらよいのか、を追究しようとしていたのだが、人間の脳の不思議さ、未知の部分の多さに「もっと知りたい」という気持ちが高まったのである。つい最近読んだのが「脳の誕生」(大隅典子著、ちくま新書)である。その脳の生後発達についての項に、「ヒトの脳は3歳児頃までに出来上がる」という「3歳児神話」は事実ではない、と書かれていた。なぜなら、脳は領域ごとに成熟の仕方が異なっており、意思決定などに関わる前頭前野の成熟が最も遅く、21歳まで変化しているから、とのことである。

 なぜ「3歳児神話」を信じている人が多いのかというと、かつては「脳の細胞は3歳の時点が数のピークで、あとは死んでいくだけ」と大学でも教えていたからだそうだ。しかし、現在は、脳の特定の領域では、生涯にわたって脳細胞が産生されていることが分かっているそうである。科学は日々進歩しているのだ。

 ところで、私も勘違いしていたことがある。人間の胚は進化の過程を経て人間の胎児として生まれる、と思い込んでいたことである。そんな絵を図鑑で観たような記憶がある。しかし、それも正しくなかった。正しくは、脊椎動物の最初の胚の形が共通しているということのようだ。他にも、ヒトは二足歩行をしたことで脳が大きくなったわけではない、ということも知った。人間にはまだまだ不思議が沢山ある。新事実も今後出てくることだろう。

 わが子(孫)に将来大きく伸びる可能性があるとしたら、親(祖父母)のできることは、その背中をそっと押してやることだけではないか。本物なら自分で伸びようとするはずである。それをキャッチしたら、邪魔するのではなく、できる限り環境を整えて伸びやすくする。本物なら、親が引っ張らなくとも回りが放っておかないはずである。

 トップアスリートやノーベル賞クラスの研究者が自分の子供や孫として生まれる確率は宝くじで1億円当てるようなものだろう。それでも宝くじを買う人がいるということは、3歳児に早期教育する人が沢山いてもおかしくはないか。やっぱりかわいそうなのは子供だ。



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