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俊足の刑事は泥棒を捕まえ縄を綯う


2018.10.14


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 休みの日の午後、時間があれば2時間ドラマの再放送を観ている。再放送されるということは評判が良かったということであり、いつも期待を超える感動を得ている。正直なところ、本放送よりも外れがない。殆ど全てが刑事ものである。そして大抵、刑事は犯人が立ち寄りそうなところを見張ってはいるものの、逃げる犯人を追いかけていて取り逃がしている。あちらの道を通りそうだと先回りして捕まえたケースは1度しか見たことが無い。ということは1%にも満たないのではないか。99%以上は最終的には犯人の後を追う体力勝負なのだ。俊足の刑事でなければ絶対に捕まえられない。

 話は変わる。SNSのつぶやきからファッションのトレンドを予測できないか、と学生と研究をしているのだが、様々なデータと組み合わせても思うような結果が出ない。例えば衣服の型、色、素材、などの好みの変遷は分るので、それらとつぶやきの内容を組み合わせてみても、その先に流行するものは全く無関係なものとなる。近いものに行き当たることもあるが、そこに至るプロセスは不明確(つまり偶然)である。

 なぜファッションのトレンド予測ができないのか。改めて原因追究からやるべきだろうと、学生に過去の研究を探ってもらった。案の定、もう十数年前から、ファッションの流行は気まぐれで予想がつかず、短期間で終わるものだということが分かっていた。顧客の発想は自由であり、常識に囚われておらず、気に入らなければすぐに離れる。確かなのは、今客が欲しがっているものが流行だということだけなのだ。つまり、流行は予測するものでも作るものでもないというのが現代の常識となっていたのだ。ということは、先回りして欲しがりそうなものを用意してあげるなどということはとても無理であり、今欲しがっている物は何かを素早く捉えて、さっと出してあげることが必要というわけである。だからこそ、ファストファッションが全世界に広がり、SPA(製造小売り)がアパレル業界の主流になっているのではないか。今頃気づいたのか、と自分をしかりつけたくなる。結論として、ファッションのトレンドを知るには、刑事ドラマと同じように、犯人が立ち回りそうなところに張り込むものの、最後は走って犯人を追いかけるしかないのである。そこで重要なのは俊足の刑事の存在という訳である。

 さて、流行を掴んだところで売るものが無ければどうしようもない。勝負は、すぐ作ってすぐ届けられることになる。まるで「泥棒を捕らえて縄を綯う」つまり「泥縄」をスピーディに行えることが勝敗を決するというわけである。売れているファストファッション企業はそれをうまくやっているということである。かつては「泥縄」は悪いこと、その対義語である「備えあれば憂いなし」が推奨されたものだが、現代の、少なくともファッション業界においては逆のようである。

 ところで、ここで研究を止めてしまう訳にもいかない。初心に戻って、SNSのつぶやきから「現在の」流行を掴むことを考えよう。一体、どのような単語や言い回しから流行が読み取れるのか。まだまだやれることはあるはずである。



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