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原因分析の二つの方向性


2016.11.03


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 大学で多数の学生に対して講義をしていると思わぬ発見がある。先日も、百数十人を対象とした技術者倫理の講義において、人間の思考に二つの異なる方向性を持つ傾向があることに気づいた。

 この講義では、毎回ケース(事例)を示し、それに対して原因の分析や対策の提示を求める。多くは実際の企業の不祥事や事故の事例を使う。それに対して原因の分析と今後の改善案を出してもらう。話し合いをすることもあれば個人で意見を書いたものを分類、整理して次の講義で示すこともある。

 企業の不祥事により社外(世の中)に多大な被害を与えた事例を使ったことがある。環境条件として、経済状況が悪化していたこと、その企業の経営状況が悪かったこと、取引先の発言力が強く逆らえない状況だったこと、などを挙げた。一方、社内の状況としては、リストラでベテラン社員が退職し人材不足だったこと、アルバイト社員が教育を受けることなく言われた通りの作業をこなしていた、ということ、法規制にのっとった作業方法ではなく、いわゆる裏マニュアルに従った仕事をしていたこと、などを挙げた。

 学生の原因分析結果は大きく2つの方向に分かれた。

 一つ目は、外部に向けた視点によるものである。すなわち、会社の経営悪化が原因、さらには経済状況の悪化が元凶とする見方である。その改善策は、経営者が頑張って経営を立て直せばよい、そうすれば無理な顧客の要求をのまなくて済む、ということになる。

 二つ目は、社内に向けた視点によるものである。すなわち、そもそもその仕事の意味が社員に明確に伝えられていなかったこと問題であり、それによりやってはならない振る舞いをしてしまったのではないかとする見方である。その改善策は、アルバイト社員にもきちんとした教育を行い、仕事の意味を伝えること、社内のコミュニケーションを良くし、疑問を感じたらすぐに周りに相談できるようにすること、などが挙げられた。

 明らかに、一つ目の視点で原因を探っていくと解決は非常に難しくなる。経営者が悪い、社会が悪い、自分には関係ないという逃げに入り、解決策を考えることすらしなくなる。  二つ目の視点では、問題を自分たちのものとして捉えているので、解決に結びつく可能性がある。すぐにも行動に移せる解決策も見出せる。少なくともこの視点での解決を図る努力をしたうえで、一つ目の視点を考慮するべきではないか。

 表面的な問題から本質的な課題を見つけ出すようにと言っても、見る方向が異なれば違った分析結果になり、場合によっては「これは社会が悪い、自分では解決が無理」と放り出してしまう結果にもなりかねない。まずは自分の行動に結びつく方向に視点を持っていくことで、問題解決の第一歩につながるのではないか。社会環境の問題を考えるのはその後でよいと思う。変える順番は、まず自分、次に自分の組織、そして世の中となる。後になるほど困難になるのは明らかである。

 一方、技術者倫理ではもう一つのことを伝える。「最優先するべきは世の中の利益、次に組織の利益、最後が自分の利益である」。優先順位が逆になることで不祥事は起こる。自分の保身を最優先とし、組織の存続を次に考え、最後に世の中の利益を考えることが、多くの企業不祥事の元凶ではないか。



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